アクセスはある。商品も悪くない。でも売上が伸びない。
そう感じながらも、日々の受発注業務に追われて改善に手が回らない。やるべきことはわかっているのに、気づけば何ヶ月も同じ状態が続いている。ECを運営していると、こういう場面は珍しくありません。
売上が伸びない原因は、施策の不足だけではありません。それ以前に、見直すべき問題が放置されている。15年間、現場でEC運営に携わってきた経験から言うと、そういうケースのほうが圧倒的に多いのです。
私はEC業界に15年身を置き、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングのモール運営から、Shopify・ebisumartなどの自社EC構築・運用まで一通り経験してきました。その現場で繰り返し目にしてきたのは、業種も規模も違うのに、売上が伸びないサイトが同じところで詰まっているという事実です。
この記事では、その共通パターンを7つに整理し、優先順位順に解説します。読み終わったとき、「自分のサイトはどこで詰まっているか」が見えてくるはずです。
パターン1:モールと自社ECの使い分けができていない
ECを複数チャネルで展開している事業者の多くが、同じ落とし穴にはまっています。楽天でもAmazonでも自社ECでも、やっていることがほぼ同じなのです。
商品ラインナップも価格も訴求も横並び。結果として「どのチャネルでも中途半端」な状態になり、モールの広告費だけが膨らんでいく。営業担当者に勧められるままポイント施策や検索広告に費用をかけ、キャンペーン期間中は売れた感覚があるが、利益はほとんど残っていない。
根本的な問題は、各チャネルの特性を理解しないまま運営していることです。
楽天はポイント経済圏に最適化されたユーザーが多く、ポイント還元やセール施策との相性が高い。Amazonは検索型の購買行動が強く、商品タイトルやレビューの最適化が売上に直結する。Yahoo!ショッピングはPayPay経済圏との連動が強みです。それぞれのチャネルには異なる特性があり、同じやり方で戦っても効果は出ません。
自社ECも同様です。「とりあえず自社ECも持っておく」という発想では機能しません。自社ECが有効なのは、特定のモール経済圏に属さない顧客や、ブランドに共感している顧客との関係を深めたい場合です。顧客データを自社資産として蓄積し、メルマガやステップメールでリピーターを育てる。それが自社ECを持つ本来の意味です。
逆に言えば、モールだけで十分な事業者もいます。自社ECを持つかどうかは「やるべき」ではなく、自分の事業規模・目的・リソースに合わせて判断すべきことです。
重要なのは「何となく全部やっている」状態から抜け出すことです。各チャネルの特性を理解した上で、自分の事業に合った組み合わせと役割を設計する。それだけで、同じ予算・同じ商品でも売上と利益の構造は大きく変わります。
打ち手
- 自社が出店している各モールの特性を改めて整理し、チャネルごとに戦術を変える
- 自社ECを持つかどうか、持つなら何のために使うかを明確に定義する
- 各チャネルの広告投資は費用対効果を定期的に検証し、モール営業担当者の提案を鵜呑みにしない
パターン2:商品説明でスペックしか語られていない
ECサイトの商品ページを見ていると、こういった説明文に頻繁に出会います。素材・サイズ・重量・カラーバリエーションが箇条書きで並んでいるか、メーカーから提供された説明文がそのままコピーされているか。あるいは「高品質な素材を使用した、こだわりの一品です」といった、売り手目線の自己紹介で終わっているか。
これらに共通しているのは、買い手の視点が完全に抜けていることです。
商品説明の役割は、スペックを伝えることではありません。「この商品を買えば、自分の生活や仕事がどう変わるのか」を読者に想像させることです。
例えば「防水素材使用」というスペックがあるとします。これをそのまま書いても、読者の購買意欲には直結しません。「雨の日でも気にせず使える。急な天気の変化にもバッグの中身を守ります」と書いて初めて、読者は自分ごととして受け取れます。
読者の課題や悩みを言語化し、この商品を買えばどう解決できるのかを具体的に示す。なぜこの商品で解決できるのか、その根拠を伝える。この流れで書かれた商品説明は、スペックの羅列とは全く異なる説得力を持ちます。
画像も同様です。商品の正面写真1枚では、手に取ったときのサイズ感も、使用シーンも、細部のディテールも伝わりません。複数アングル・使用シーン・サイズ比較・素材感のクローズアップ。これらが揃って初めて、読者はオンラインでの購買に踏み切れます。
打ち手
- メーカーの説明文をそのまま使っている商品を洗い出し、自社の言葉で書き直す
- 「この商品を買うとどうなるか」という購入後の未来を具体的に描写する
- 商品説明に「課題・解決策・根拠」の流れを意識して盛り込む
- 画像は競合の上位商品ページを参考に枚数・構成を揃え、使用シーンと細部のクローズアップを必ず含める
パターン3:リピーター施策をしていない
ECの売上が伸び悩んでいる事業者に「リピーター比率はどのくらいですか?」と聞くと、答えられないケースがほとんどです。そもそも計測していないか、なんとなく把握しているつもりでも正確な数字が出てこない。
原因は明確です。意識が常に新規獲得に向いているからです。
広告を出せば即日反応が出る。セールをすれば売上が動く。新規施策は結果が見えやすいため、予算と労力が集中しやすい。一方、リピーター育成は効果が出るまでに時間がかかるため「後でやろう」が積み重なります。
しかしこの構造は、放置するほど利益を圧迫します。新規顧客の獲得コストはリピーターへの再購買促進コストより大幅に高い。新規ばかりを追い続けると、広告費をかけるほど利益が薄くなる。1回買ってくれた顧客が3回買ってくれれば、広告費ゼロで売上が立つという視点が、EC事業者には欠かせません。これがLTV(顧客生涯価値)の考え方です。
もうひとつ見落とされがちな問題があります。自分の店の優良顧客が誰なのか、把握できていないことです。「30代女性・都市在住・感度が高い」といった理想のペルソナを描いていても、実際に繰り返し買っているのは全く異なる層だったというケースは珍しくありません。リピーターと新規客が何を買っているかを把握していなければ、誰に何を届ければいいかが見えてきません。
加えて、モール運営が中心の事業者には構造的な問題があります。楽天・Amazon・Yahoo!のユーザーはあくまで「モールの顧客」であり、出店者には顧客の連絡先も購買履歴も渡されません。モールでは顧客データが取れないため、リピーター施策の打ちようがないのです。自社ECやCRMツールを持つ意義のひとつは、ここにあります。
リピーター施策は、まず「今いる顧客を正しく知る」ところから始まります。
打ち手
- 自店のリピーター比率・リピーター数を正確に把握する
- 購買データからリピーターと新規客それぞれの購買傾向を分析する
- 理想のペルソナではなく、実際の優良顧客データからペルソナを再定義する
- メルマガ・ステップメール・会員プログラムなど、リピーター育成の仕組みを最低1つ導入する
パターン4:広告を外部に丸投げしている
「広告はプロに任せたほうがいい」という判断自体は間違いではありません。問題は、任せた結果を誰も把握していない状態が続くことです。
どんなキーワードで広告が出ているかわからない。楽天コンサルに勧められたメニューをそのまま契約している。毎月レポートが届いているが、読んでいないか読んでも理解できていない。こういった状態のEC事業者は、現場で驚くほど多く見かけます。
最も深刻なのは、広告からどれだけ売上が出ているか、そしてその売上から広告費を引いたときに利益が残っているかを把握していないケースです。売上レポートの数字は良く見えても、広告費を差し引くと赤字だったというケースは珍しくありません。
さらに怖いのは「広告を止めたら売上がどうなるかわからない」状態です。広告費に依存した売上構造になっていると、費用を削減した瞬間に売上が崩壊します。それに気づかないまま毎月広告費を払い続け、利益が出ない構造が固定化していく。
SNS広告も同様です。「やったほうがいいと聞いたから」という理由で出稿しているケースが多く、ターゲット設定も効果測定も曖昧なまま予算だけが消えていきます。
広告代理店やコンサルが悪いわけではありません。任せきりにする側に問題があります。自社の広告に何が起きているかを最低限把握する責任は、事業者側にあります。
打ち手
- 出稿中の広告のキーワード・ターゲット・予算を自分で把握する
- ROAS(広告費用対効果)を定期的に確認し、広告費を引いた後の利益を把握する
- 代理店・コンサルのレポートを読み、理解できない部分は説明を求める
- 広告を一時停止したときの売上変化を把握し、広告依存の構造になっていないか確認する
- クリエイティブ(バナー・テキスト)に自社商品の強みが反映されているか定期的に確認する
パターン5:カートの離脱率を把握していない
集客には力を入れているのに、売上が伸びない。そういった場合、カートでの離脱が原因になっているケースが少なくありません。せっかく商品ページまで来て「買おう」と思った顧客が、カートの段階で離れていく。
しかしこの問題に気づいている事業者は驚くほど少ない。「カート離脱」という概念自体を考えたことがない、という声も現場では珍しくありませんでした。
カート離脱が起きる原因は、大きく5つあります。
情報の詰め込みすぎ。注意書きを丁寧に書こうとするあまり、カート画面がごちゃごちゃになっているケースがあります。「顧客情報をできるだけ取得したい」という理由で、購入に不要な生年月日・性別・電話番号まで入力を求めるケースも同様です。フォームの項目が増えるほど、途中で離脱する確率は上がります。
送料・手数料の後出し。商品ページでは気づかなかった送料が、カートに進んで初めて表示される。想定外のコストが購入直前に出てくると、顧客の購買意欲は一気に冷めます。
決済方法の不足。「追加するのが面倒」という理由でクレジットカードと代引きしか対応していないケースがあります。PayPay・Amazon Pay・コンビニ払いなど、顧客が使い慣れた決済方法がなければ、それだけで離脱につながります。
会員登録の強制。初めて買う顧客にとって、購入前の会員登録は心理的なハードルです。ゲスト購入を可能にするだけで離脱率が改善するケースは多い。
モバイル対応の放置。現在のECはスマートフォンからの購入が主流です。にもかかわらず、PCで設計したカートをモバイルで最適化していないケースが今も多く残っています。
これらは一つひとつは小さな問題に見えますが、重なると大きな機会損失になります。まず自分のカートを顧客の目線でスマートフォンから操作してみてください。改善すべき箇所が、すぐに見えてくるはずです。
打ち手
- カート離脱率をGA4または各モールの管理画面で定期的に確認する
- カート画面の注意書きと入力項目を精査し、購入に不要な要素を削除する
- 送料・手数料は商品ページの段階で明示する
- ゲスト購入を可能にする
- 主要な決済方法(PayPay・Amazon Pay・コンビニ払い等)を追加する
- スマートフォンでのカート操作を定期的に自分で確認する
パターン6:受発注業務に追われ、集客・販促施策が後回し
「やるべき施策はわかっている。でも時間がない」。EC運営の現場で最もよく聞く言葉のひとつです。
人手が足りない中で、商品登録・受注確認・発注・在庫管理・問い合わせ対応をこなしていく。それだけで1日が終わる。メルマガを書く時間も、商品ページを改善する時間も、広告を見直す時間もない。気づけば何ヶ月も「現状維持」のまま時間が過ぎていきます。
この状態が続く背景には、業務の構造的な問題があります。
複数モールへの商品登録・在庫更新を個別に手作業でやっている。受注管理をExcelや手作業で運用しており、ミスの対応に時間を取られている。繁忙期にはクレーム対応だけで手一杯になる。こういった非効率が積み重なり、「改善策を考える時間」が構造的に取れない状態になっています。
問題は、この状況を「仕方がない」と受け入れてしまうことです。
忙しいから施策が後回しになる。施策が打てないから売上が伸びない。売上が伸びないから人を雇えない。人がいないから忙しいまま。この悪循環は、外から断ち切らない限り自然には解消されません。
解決の入口は、業務効率化への投資です。受注管理ツールや在庫一元管理ツールを導入することで、手作業にかかっていた時間を大幅に削減できます。複数モールの在庫・受注を一元管理できる環境が整えば、その分の時間を施策に回せるようになります。
「ツール導入にかかるコスト」と「生まれる時間でできる施策の価値」を比較したとき、多くの場合は投資する価値があります。
打ち手
- 現在の業務を書き出し、手作業で行っている繰り返し作業を洗い出す
- 受注管理・在庫管理ツールの導入を検討し、複数モールの一元管理を実現する
- 商品登録・在庫更新などの定型作業を自動化・効率化できる部分を特定する
- 業務効率化で生まれた時間を、施策実行のための時間として確保する
パターン7:価格競争に巻き込まれている
「楽天やAmazonで最安値に合わせないと売れない」。そう思い込んでいるEC事業者は少なくありません。競合店の価格を毎日チェックし、値下げに値下げを重ねる。セールやポイントキャンペーンのときだけ売れるが、通常時はほとんど動かない。
この状態が続くと、じわじわと利益が削られていきます。値下げした後に送料・モール手数料・広告費を引いたら赤字だった、というケースは現場で珍しくありません。売上の数字は立っているのに、手元に残るお金がない。
さらに深刻なのは、価格を下げ続けることで「安い店」というイメージが定着し、値上げできなくなることです。一度安売りで顧客を集めると、その顧客は価格が戻った瞬間に離れていきます。
価格競争に巻き込まれる本質的な原因は、価格以外の理由で選ばれる要素を作れていないことです。同じ商品を扱う競合が複数いる中で、なぜ自分の店で買うべきなのかを伝えられていない。商品ページもメルマガもSNSも、強みではなく価格だけを訴求している状態では、価格以外で戦う手段がありません。
解決策は「最安値をやめる」ことではありません。「価格以外の理由で選ばれる要素を作る」ことです。
自社商品の強みを言語化し、商品ページ・メルマガ・SNSで一貫して伝える。独自の世界観やストーリーを持つ。同じ商品でも「この店で買いたい」と思わせる接客や情報発信をする。こういった積み重ねが、価格競争から抜け出す唯一の道です。
最安値でなくても売れている店は必ずあります。その店が持っているのは「安さ」ではなく「選ばれる理由」です。
打ち手
- 値下げ前に送料・手数料・広告費を含めた利益を必ず計算する
- 自社商品の強みと差別化ポイントを言語化する
- 商品ページ・メルマガ・SNSで価格以外の訴求を一貫して行う
- セール・キャンペーン依存の売上構造になっていないかを定期的に確認する
まとめ
ECの売上が伸びない原因は、ひとつではありません。この記事で取り上げた7つのパターンを読んで、複数当てはまると感じた方も多いのではないでしょうか。
全部一度に解決しようとする必要はありません。まず優先順位を決めて、ひとつずつ手をつけることが重要です。
最初に取り組むべきは、日々の受発注業務の効率化です。時間を作らない限り、どんな施策も後回しになり続けます。業務効率化で生まれた時間を使って、次にカートの離脱率を確認してください。集客コストをかけずに、今いる顧客の取りこぼしを減らすことができます。
その次は商品説明の見直しです。今ある商品ページを書き直すだけで、同じアクセス数でも売上が変わります。広告の費用対効果を把握し、無駄な出費を止める。リピーター育成の仕組みを作る。モールと自社ECの役割を整理する。そして最終的には、価格以外の理由で選ばれる店を作っていく。
この順番で取り組むことで、売上だけでなく利益が残るEC運営に近づいていきます。
一度に全部やろうとしなくて大丈夫です。まず今日、自分の店の受発注業務を書き出すところから始めてみてください。

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